IP Case
特許法・実用新案法 関連判決
平成21年(行ケ)第10004号

高圧縮フィルタートウベール事件

訂正の許否、記載要件
管轄:
判決日:
平成21年9月3日
事件番号:
平成21年(行ケ)第10004号
キーワード:
訂正の許否、記載要件

第1事案の概要


訂正の適否と明細書の記載要件が判断された事案である。争点は以下のとおりである。

  1. 請求項19及び23(従属項)についてのみ判断をし、請求項1等に係る訂正の判断をしなかったことに違法性があるか;特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正について述べた最高裁判決(平成19年(行ヒ)第318号平成20年7月10日判決)に従い、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正についても、その適否が請求項ごとに判断されるべきか

  2. 本件発明が数値限定により特定されている場合に、数値限定を満足する実施例と満足しない比較例がなければ、その技術的意義は不明と判断されるか


第2 本件審決の理由の要旨


本件訂正請求において、請求項1ないし3,5,9ないし13、18,19,21ないし25について訂正請求を行ったところ、本件審決は、請求項19及び23に係る2つの訂正請求のみを判断し、訂正要件を欠くとして本件訂正すべてを認められないとした。その上で、本件発明は、特許法36条4項1号又は6項1号、2号の規定に適合するものではなく、本件特許は無効とされるべきである、としたものである。

第3 本件発明(下線部分が訂正箇所である。)


【請求項1】ベールの頂側部と底側部に妨害となるような膨張部分またはくびれ部分が無い,梱包され,ブロック形態に高圧縮したフィルタートウのベールであって,
(a)前記ベールが,少なくとも300kg/mの梱包密度を有し;
(b)前記ベールが,機械的に自己支持する弾性梱包材料内に完全に包装され,かつこの材料は,対流に対して気密性を有する1つまたはそれ以上の接続部分を備えており;
(c)非開封状態のベールを水平面上に配置した状態で,平坦な板をベールの頂部に圧接させ,ベールの中心に対して垂直方向に100Nの力を作用させたとき,圧接板に対するベールの垂直投影に内接する最大の矩形の範囲内で,ベールの頂面における内接矩形内に位置する部分の少なくとも90%が,平坦な板から40mm以下離間する程度に,前記ベールの頂面および底面が平坦であり;
(d)前記ベールが,少なくとも900mmの高さを有しており;
(e)少なくともベールが梱包された後に,外圧に対して少なくとも0.01barの負圧がベールにかかっている,
ことを特徴とするフィルタートウのベール。
【請求項19】周囲圧力よりも0.2~0.4bar低い負圧が生成されることを特徴とする請求項18に記載のプロセス。
【請求項23】200cm/(m・d・bar)未満,好ましくは20cm/323(m・d・bar)未満のガス透過率を有するフィルムをパッケージ包装材として使用することを特徴とする請求項22に記載のプロセス。

第4 裁判所の判断


1.個別の請求項ごとに訂正の許否を判断しなかった誤りについて



  1. 本件特許は,請求項1ないし26から成り,請求項2ないし26はいずれも請求項1を直接的又は間接的に引用する従属項であるから,請求項1について訂正を求める本件訂正は,請求項1を介してその余の請求項2ないし26についても訂正を求めるものと解さなければならない。
    しかるところ,本件審決は,本件訂正につき,請求項19及び23についてのみ判断をし,その訂正が求められないことをもって,他の請求項1ないし18,20ないし22及び24ないし26に係る訂正の判断をしないまま,これらの請求項に係る訂正も認められないとしたものであるから,これらの請求項に係る各訂正事項につき判断をすることなく,本件発明1ないし18,20ないし22及び24ないし26の各要旨認定をしてしまったものであって,この点において,本件審決には違法があることになる。

  2. 被告は,特許無効審判における訂正の請求において,請求項ごとの個別の訂正が認められるのは,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正請求であり(注:前掲最高裁判決引用),独立特許要件が要求されていない明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正請求については,請求項ごとの個別の適用が認められるものではないと主張するが,たとい特許無効審判における訂正請求の請求書に記載されている訂正の目的が明りょうでない記載の釈明であったとしても,それが請求項ごとに請求することができる特許無効審判請求に対する防御手段としての実質を有するものであるならば,このような訂正請求をする特許権者は,請求項ごとに個別に訂正を求めるものと理解され,また,このような請求項ごとの個別の訂正が認められないと,特許無効審判事件における攻撃防御の均衡を著しく欠く結果となってしまうものであって,被告の主張は採用できないというべきである。

  3. 本件訂正における請求項1に係る訂正内容は,「約40mm」を「40mm」と,「約900mm」を「900mm」と訂正するものであり,上記(2)のとおり,この訂正は特許無効審判請求に対する防御手段としてされたものであるにもかかわらず,審判体は,その訂正に対する判断をしないまま,本件訂正前の請求項1ないし26を前提として記載要件につき判断をしているものであって,その判断の前提を欠いている以上,本件審決には違法があるといわざるを得ない。


2.特許法36条4項1号違反との判断の誤りについて


本件明細書には,上記課題を解決するための手段として,ベールの頂面における内接矩 形内に位置する部分の少なくとも90%が,平坦な板から約40 mm 以下離間する程度に, ベールの頂面及び底面が平面であるようにすること,フィルタートウのパッケージ包装材 を気密にシールするとともに,少なくともベールが梱包された後に外圧に対して少なくと も0.01barの負圧がベールにかかっている状態にすること,負圧の制御方法の記載 があることが認められるのであって,本件発明1につき,当業者において,本件明細書の 記載により,その課題との関係での数値限定を付した技術的意義を理解できるものと解さ れ,そうすると,数値限定を付した場合の効果(実施例)と,このような数値限定を満足 しない場合の効果(比較例)との十分な記載がないから,本件発明1の技術的意義が十分 に記載されているとはいえないとの理由のみで,本件発明1及びこれを引用する本件発明 2ないし26が特許法36条4項1号の規定に適合しないとした本件審決の判断も首肯し 得ないものといわなければならない。

3.結論


以上の次第であるから、本件審決は取り消されるべきものである。
2009年10月
エスエス国際特許事務所

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