IP Case
特許法・実用新案法 関連判決
平成17年(行ケ)第10607号

リチウム二次電池用非水電解液事件

特新規事項の追加、比較例→実施例
管轄:
判決日:
事件番号:
平成17年(行ケ)第10607号
キーワード:
特新規事項の追加、比較例→実施例

電池電解液に関する発明について、当初明細書に比較例としていたものを、実施例とする補正(補正1)が新規事項の追加に該当すると判断された事案である。
比較例は将来実施例となりうる場合があるので、比較例を明細書に記載することについて、慎重な検討が必要である。たとえば参考例などの用語を使用することがよいかもしれない。

2 特許請求の範囲

【請求項1】環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合物である非水溶媒と、リチウム塩とを含む非水電解液であって、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレンおよびシクロヘキシルベンゼンからなる群より選ばれる化合物を非水電解液1kgあたり1g以上、5g以下の量にて含有するリチウム二次電池用非水電解液。

【請求項2】環状カーボネートが、エチレンカーボネートもしくはプロピレンカーボネートである請求項1に記載のリチウム二次電池用非水電解液。
【請求項3】非環状カーボネートが、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、もしくはメチルエチルカーボネートである請求項1に記載のリチウム二次電池用非水電解液。
【請求項4】容器内に、正極、負極、そして請求項1乃至3のうちのいずれかの項に記載の非水電解液が充填されているリチウム二次電池。

3 取消決定の理由

補正1は、別紙1の【表2】の記載から、「本発明」(実施例を意味する)と「比較例」とを区別するために設けられた「備考欄」を削除するとともに、いくつかの具体例だけを取捨選択して、別紙2の【表2】、【表3】とすることなどを内容とするものであるが、決定において新規事項の追加であるとされたのは、補正1により、補正後発明には「負極材料が黒鉛の場合」が実施例として含まれるものとなるところ、「負極材料が黒鉛の場合」を実施例として含むような発明は、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「当初明細書」という。)に記載されていないから、補正1は、当初明細書に記載された事項の範囲内においてされたものではない(新規事項の追加に該当する。)というものである。

4 裁判所の判断

1. 当初明細書において「実施例」という見出しが【表2】における「比較例」及び「本発明」のいずれも含むものとして用いられている以上、「実施例」の見出しの下に、【表2】における「比較例」のみが説明されていても、何ら不合理ではなく、見出しに「実施例」とあることを根拠に【表2】の「電解液番号1aないし10a」の場合が実施例であるとする原告の主張を採用することはできない。


2. 当初明細書の負極材料に関する前記各記載及び【表2】の記載を全体としてみれば、「負極材料として黒鉛を用いた場合」は、当初発明よりも劣る結果が出る「比較例」と解するのが自然であり、このような否定的な具体例を当初発明の実施例と解することは、当初明細書の記載に接した当業者の理解の範囲を超えるものである。

3. 「電解液番号7a、8a」の場合の具体例は、当初明細書の前記記載からみれば、当初明細書の【表2】の記載のとおりに「比較例」を意味すると解するのが自然である。したがって、補正1によって、「電解液番号7a、8a」の場合という新たな「実施例」を追加することとなるから、この補正が新規事項の追加であると判断した決定に誤りはない。

4. 当初明細書において当初発明に属しない具体例(比較例)とされていたものが、当初発明に属する具体例(実施例)とされたならば、第三者が不測の不利益を被ることは明らかである。

平成18年7月
エスエス国際特許事務所

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