IP Case
特許法・実用新案法 関連判決
平成13年(行ケ)第417号

難燃性組成物事件

発明の要旨の認定
管轄:
東京高裁
判決日:
平成14年11月12日
事件番号:
平成13年(行ケ)第417号
キーワード:
発明の要旨の認定

1.

本件では、発明の要旨の認定は、特許請求の範囲の記載に基づいてなされるべきであって、発明の詳細な説明の記載を参酌して文言を限定して解釈すべきとする特段の事情もないと判断された。

2.本件特許請求の範囲


【請求項1】水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物を粉砕し、脂肪酸、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤より選ばれた少くとも1種を主成分とする表面処理剤で表面処理を施した後、この表面処理材をプラスチック又はゴム100重量部に対して50~200重量部添加し、難燃性を付与すると共に耐酸性を向上せしめたことを特徴とする難燃性組成物。

3.原告の主張


本件発明の「・・・表面処理剤で表面処理を施した後」(請求項1の記載)における「表面処理」は、乾式処理である。すなわち、水酸化マグネシウムの表面処理方法には湿式法と乾式法とがあり、湿式法で行う場合は、一般には水酸化マグネシウムがスラリー状態でされるところ、本件明細書の表1の注書きには単に「脂肪酸で表面処理した水酸化マグネシウム」と記載されているだけであって、スラリー状に調整していることについては何ら記載されていない。したがって、水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物を原料としている本件発明においては、その表面処理が乾式法により行われていることは明らかである。
しかるに、決定は、本件発明の「表面処理」の意義を誤り、引用例1(甲3)記載の発明と本件発明との一致点・相違点の認定に当たり、表面処理につき、「湿式」か「乾式」かの違いを全く考慮しなかった。そして、表面処理の方式が本件発明では乾式処理であるのに対し、引用例1記載の発明では湿式処理であるにもかかわらず、それを相違点として挙げておらず、その相違点について検討していない。また、本件発明の効果についても、表面処理の方式の違いに関して検討していない。
以上のように、決定は、本件発明の要旨認定を誤ったものであるから、取り消されるべきである。

4.裁判所の判断



  1. 本件発明の出願時には、原告の主張するように、当該表面処理方法として「乾式方法」と「湿式方法」があることが知られていたことが認められる。
    表面処理方法として乾式と湿式があることが本件出願前に知られていたことは前述のとおりであるから、特に限定を付することなく「表面処理」というときには、乾式と湿式の両者が含まれることは明らかである。そして、本件の特許請求の範囲には、「表面処理」の方法を一方に限定する記載は存在せず、「表面処理」を乾式処理に限定して解すべきとする特段の事情も認められない。
    なお、本件明細書の【表1】の注には、原告主張のとおり、単に「脂肪酸で表面処理した水酸化マグネシウム」と記載されているが、この記載は処理剤が脂肪酸であることをいうものであり、処理形態(湿式か乾式か)を特定しているものとは認められない。したがって、この注書きにスラリーの調整について記載がないことのみをもって、これが直ちに乾式処理のみを意味するものと解することもできない。

  2. 原告は、本件発明の格別な効果を主張するが、その主張は、本件発明の難燃性組成物に添加される水酸化マグネシウムが乾式による表面処理であることを前提とするものであって、その前提において誤っているから、失当である。


[コメント]意見書などで発明の特徴あるいは効果を主張する際には、特許請求の範囲で特定された要件に基づいて行なわなければならない。
2003年2月
エスエス国際特許事務所

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