IP Case
特許法・実用新案法 関連判決
平成13年(行ケ)第311号

収納ボックス事件

分割(変更)出願
管轄:
判決日:
平成14年10月9日
事件番号:
平成13年(行ケ)第311号
キーワード:
分割(変更)出願

(1)平成13年(行ケ)第311号(平成14年10月9日判決)



  1. 収納ボックスに関する意匠登録出願を特許出願に変更し、特許査定後設定登録を受けたが、無効審判が出され、特許無効の審決がなされた。これに対して特許権者が審決取消請求をしたのが本件である。

  2. 争点:原意匠図面等には、「本件図面で図番13および23として示される実線が記載されている」が、この実線の解釈が一義的か否かについて争われた。

  3. 裁判所の判断
    原告は、原意匠図面等から様々なことが読み取れる場合、これらの事項から出願人が一つを選択し、これを発明として明細書に記載して特許出願に変更することは、出願人の自由に行い得ることであると主張するので、この点について判断する。
    意匠登録出願から特許出願への出願の変更が適法である場合には、特許出願は原意匠登録出願の時にしたものとみなされ(特許法46条5項、44条2項)、出願日の遡及という効果を生ずるから、原意匠図面等に記載されていない事項を出願変更に係る特許出願の願書に添付した明細書等に記載することが認められると、意匠登録出願人を不当に保護し、意匠登録出願人と特許出願人との利益において著しい不均衡を生ずるとともに、第三者に不測の不利益を課すこととなり、相当ではないことは明らかである。そして、原意匠図面等の記載が一義的でない場合において、当該図面等の記載が複数の構成等を同時に表していることが当業者にとって自明であるときは、複数の構成等について開示がされていると解すべきであるが、複数の構成のいずれを表しているかが当業者にとって自明でないときは、その記載は、不明りょうなものとして、いかなる構成等を記載するものとも解されないというべきである。
    本件において、原意匠図面等に記載された上記実線は、一見すると、上記のとおり3種類の相容れない構成を表しているように見えないではないが、当業者にとって、そのいずれを表すものかを原意匠図面等の記載自体から決定することはできず、また、上記実線を3種類のいずれの構成であると解しても、本件明細書の記載と相容れないのであるから、結局、上記実線は、原意匠図面等における不明りょうな記載として、本件明細書にいう「レール」を記載するものということはできない。
    そうすると、原告のその余の主張について検討するまでもなく、審決の「原意匠登録出願から本件特許出願への変更は不適法であって、本件特許の出願日の遡及は認められない」(審決謄本6頁29行目~30行目)とする判断は、正当ということができる。


(2)平成11年(行ケ)第207号(平成12年9月5日判決)



  1. 本件は、分割出願の特許請求の範囲に記載されている新規化合物である8-メトキシキノロンカルボン酸の製造中間体が、基礎出願の願書に最初に添付された明細書(基礎明細書)に記載されていた否かが争われたケースである。

  2. 裁判所の判断
    化学物質につき特許が認められるためには、それが現実に提供されることが必要であり、単に化学構造式や製造方法を示して理論上の製造可能性を明らかにしただけでは足りず、化学物質が実際に確認できるものであることが必要であると解すべきである。なぜなら、化学構造式や製造方法を机上で作出することは容易であるが、そのことと、その化学物質を現実に製造できることとは、全く別の問題であって、机上で作出できても現実に製造できていないものは、未だ実施できない架空の物質にすぎないからである。そして、ある化学物質に係る特許出願の優先権主張の基礎となる出願に係る明細書に、その化学物質が記載されているか否かについても、同様の基準で判断されるべきことは明らかである。
    化合物Ⅱ(出発原料)が、基礎明細書に記載されているということはできない。そうである以上、基礎明細書には、化合物Ⅱを出発物質とする化合物Ⅰ(本件化合物)は、その製造方法が記載されていないというべきである。しかも、基礎明細書には、化合物Ⅰの物性等、これが現実に製造されたことを示す根拠も記載されていないのであるから、化合物Ⅰは実際に確認できるものではない。したがって、化合物Ⅰが基礎明細書に記載されていると認めることはできないのである。
    また、原告は、原告が本件発明の要旨事項と称する、化合物Ⅰの製造中間体としての有用性が、基礎明細書に、化学式及び反応経路図で記載されていると主張する。
    しかし、単に化学構造式や製造帆法を示しただけでは、明細書に化合物が記載されているとすることができないことは、前示のとおりである。


間接侵害(特許法第101条)の改正について



  1. 間接侵害(特許法第101条)の規定が改正されました。この点についてパテント2002 Vol.55 No.11(永井義久)で解説されていますので、ご参考にして下さい。
    なお「3.複数主体が共同して特許発明を実施する場合の保護」で紹介されている東京地判平成13.9.20 平成12年(ワ)20503号特許権侵害差止請求事件は、弊所で取扱った ケースです。


2003年1月
エスエス国際特許事務所


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