IP Case
特許法・実用新案法 関連判決
平成13年(ワ)第7196号

特許権譲渡対価請求事件

共同発明者の認定
管轄:
東京地裁
判決日:
平成14年8月27日
事件番号:
平成13年(ワ)第7196号
キーワード:
共同発明者の認定

1.事案の概要


原告(新薬開発センター製剤研究室長)は、本件特許出願に共同発明者として願書に記載された者であって、特許を受ける権利の譲渡に対する相当な対価を求めて、特許法第35条3項に基づき金銭の支払いを求めたケースである。

2.裁判所の判断



  1. 原告は、主薬と賦形剤を混合して細粒核を製造する技術と、寺下論文に開示された真球度の高いコーティング用細粒核を高収率で得る技術とを組み合わせる着想が本件発明の特徴であるから、この着想を提供した原告は共同発明者であると主張する。
    しかしながら、主薬と賦形剤を混合して細粒核を製造すること、及び、寺下論文に開示されたように、結晶セルロース(アビセル)等数種の賦形剤を混合し、アジテーターの回転速度を300~500rpmにするなどの条件設定をした上、高速撹拌造粒機を用いて造粒すれば、真球度の高い細粒核が高収率で得られることは、いずれも公知であった。また、寺下論文において示された条件設定の下で、主薬を含む真球状の核の造粒実験をすること自体は、さほど困難なことではなかった。しかしながら、実際の実験においては、各種混合物の比率、温度、アジテーターの回転速度、撹拌条件等の違いで結果が左右されることから、真球度の高い細粒核を高収率で得るための最適な実験条件を見つけ出すことは、困難であった(このことは、原告自身も本人尋問において認めている。原告本人尋問調書45頁)。
    上記によれば、平成元年当時被告会社が抱えていた課題(真球度の高い細粒核を高収率で得ること)の解決のためには、撹拌造粒法における最適な実験条件を見つけ出すことが重要であり、当時公知であった主薬と賦形剤を混合して細粒核を製造する方法と、寺下論文に開示された真球度の高いコーティング用細粒核を高収率で得る方法とを組み合わせて主薬を含む真球状の細粒核を製造しようとすることは、それ自体が発明と呼べる程度に具体化したものではなく、課題解決の方向性を大筋で示すものにすぎない。したがって、原告が上記着想を得たからといって、本件発明の成立に創作的な貢献をしたということはできず、原告を共同発明者と認めることはできない。

  2. なお、一般に、発明の成立過程を着想の提供(課題の提供又は課題解決の方向付け)と着想の具体化の2段階に分け、①提供した着想が新しい場合には、着想(提供)者は発明者であり、②新着想を具体化した者は、その具体化が当業者にとって自明程度のことに属しない限り、共同発明者である、とする見解が存在する。上記のような見解については、発明が機械的構成に属するような場合には、一般に、着想の段階で、これを具体化した結果を予測することが可能であり、上記の①により発明者を確定し得る場合も少なくないと思われるが、発明が化学関連の分野や、本件のような分野に属する場合には、一般に、着想を具体化した結果を事前に予想することは困難であり、着想がそのまま発明の成立に結び付き難いことから、上記の①を当てはめて発明者を確定することができる場合は、むしろ少ないと解されるところである。本件についても、上記のとおり、主薬と賦形剤を混合して細粒核を製造する方法と寺下論文に示された方法を組み合わせるという着想は、それだけでは真球度の高い粒核を高収率で得られるという結果に結び付くものではなく、また、当該着想自体も当業者であればさほどの困難もなく想到するものであって、創作的価値を有する発想ということもできないのであるから、原告をもって、本件発明の共同発明者と認めることはできない。


[コメント] 発明が完成された際に発明者を厳格に決定することが重要であり、またこの決定には、特許法第35条3項の対価の支払いがからんでいることがわかる。
2003年2月
エスエス国際特許事務所

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