IP Case
特許法・実用新案法 関連判決
平成24年(行ケ)第10215号

二酸化炭素含有粘性組成物事件

サポート要件、実施可能要件
管轄:
判決日:
平成25年2月14日
事件番号:
平成24年(行ケ)第10215号
キーワード:
サポート要件、実施可能要件

第1事案の概要


本件は、原告が,被告が有する本件特許[特許第4659980号,発明の名称:二酸化炭素含有粘性組成物]の請求項1ないし13に係る特許について,特許無効審判(無効2011-800244号)を請求したところ,特許庁が「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の本件審決をしたことから,その取消しを求めた事案である。

第2特許請求の範囲の記載


本件特許の特許請求の範囲の記載は,次のとおりのものである(以下,請求項1ないし13記載の発明を併せて「本件発明」という。)。
【請求項1】部分肥満改善用化粧料、或いは水虫、アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用医薬組成物として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキットであって、
1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と、酸を含む顆粒(細粒、粉末)剤の組み合わせ;又は
2)炭酸塩及び酸を含む複合顆粒(細粒、粉末)剤と、アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物の組み合わせ
からなり、
含水粘性組成物が、二酸化炭素を気泡状で保持できるものであることを特徴とする、
含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキット。
注)請求項2以降は省略

第3本件審決の理由の要点


本件審決の理由は,要するに,本件発明に関する特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項及び同条6項1号に掲げる要件を満足しないものとすることはできない,などとしたものである。

第4裁判所の判断


1.本件発明について


本件明細書の発明の詳細な説明には,二酸化炭素含有粘性組成物が部分肥満解消作用等を示すこと,発明の一態様として含水粘性組成物に気泡状の二酸化炭素を含有させたものが挙げられていること,含水粘性組成物は,二酸化炭素を皮下組織等に十分量供給できる2程度に二酸化炭素の気泡を保持するものであって,使用部位に塗布又は貼付した二酸化炭素含有組成物にガスボンベなどを用いて二酸化炭素を補給すれば効果が持続すること等が記載された上で,二酸化炭素を発生し気泡として保持する粘性組成物を塗布することにより部分肥満改善効果が奏されたことが具体的な試験例8,9及び13(実施例8,20及び18)として記載されている。
これらの記載によれば,本件特許に係る二酸化炭素含有粘性組成物の有効成分は二酸化炭素であって,その部分肥満改善効果は二酸化炭素の作用によるものであると解するのが相当である。

2.サポート要件について



  1. 特許請求の範囲の記載が,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであることを要するとするサポート要件(法36条6項1号)に適合することを要するとされるのは,特許を受けようとする発明の技術的内容を一般的に開示するとともに,特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲を明らかにするという明細書の本来の役割に基づくものである。この制度趣旨に照らすと,明細書の発明の詳細な説明が,出願時の当業者の技術常識を参酌することにより,当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に記載されていることが必要である。

  2. 本件明細書には,炭酸塩と酸を反応させて二酸化炭素を発生させることができること,そのための組合せとして,具体的な試験例で用いた炭酸塩含有含水粘性組成物と酸の組合せのほか,炭酸塩と酸の複合顆粒(細粒,粉末)剤と含水粘性組成物の組合せが記載され,アルギン酸ナトリウムが増粘剤であることや,用いることのできる炭酸塩や酸として具体的化合物が,多数記載されている。
    本件明細書のこれらの記載に接した当業者であれば,アルギン酸ナトリウムと各種炭酸塩及び各種酸を,本件発明の「1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,酸を含む顆粒(細粒,粉末)剤の組み合わせ」や「2)炭酸塩及び酸を含む複合顆粒(細粒,粉末)剤と,アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物の組み合わせ」として任意に組み合わせて用いることで,酸としてクエン酸を用いた試験例8,9及び13(実施例8,20及び18)と同様に,二酸化炭素を発生させることができ,部分肥満改善効果が得られることを理解することができる。

  3. 以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる程度に記載されており,本件発明は,発明の詳細な説明に記載したものであるということができるから,本件特許は,サポート要件を満たすものである。


3.実施可能要件について



  1. 物の発明において,その発明を実施することができるとは,その物を作ることができ,かつその物を使用できることを意味する。

  2. 当業者であれば,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された各種炭酸塩や各種酸をアルギン酸ナトリウムと組み合わせることにより,本件発明の「1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,酸を含む顆粒(細粒,粉末)剤の組み合わせ」や「2)炭酸塩及び酸を含む複合顆粒(細粒,粉末)剤と,アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物の組み合わせ」を製造することができ,これらを混合することにより二酸化炭素を発生させて部分肥満改善用に使用することができる。

  3. したがって,発明の詳細な説明は,本件発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから,本件特許は,実施可能要件を満たすものである。


4.原告の主張について


原告は,当業者は,二酸化炭素は血行促進作用を有さず,痩身作用も当然有しないと認識していた旨主張する。
しかしながら,原告の上記主張は,二酸化炭素が部分肥満改善効果を有しないことを具体的あるいは合理的に主張するものではない。そして,本件発明が,発明の詳細な説明に記載したものであり,発明の詳細な説明が,本件発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていることは,前記2及び3に判断したとおりであって,二酸化炭素が生体に及ぼす作用を当業者がどのように認識していたのか,また,本件発明の作用機序がいかなるものであるのかは,この判断に影響を及ぼすものではない。

第5結論


以上の次第であるから、原告の請求は棄却されるべきものである。
2013年4月4日
エスエス国際特許事務所

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