IP Case
特許法・実用新案法 関連判決
平成17年(行ケ)第10486号

冷凍装置事件

進歩性
管轄:
判決日:
平成18年8月
事件番号:
平成17年(行ケ)第10486号
キーワード:
進歩性

1 冷凍機油について


イ)冷媒の純度を99.95wt%以上、塩素系冷媒の混入を80ppm以下と規定し、
ロ)冷凍機油の基油の全酸価などを特定するとともにその製法を規定した発明の特許性が争われた事案である。

2 本件発明の要旨


「圧縮機、凝縮器、減圧装置および蒸発器を少なくとも有する冷凍サイクルを備えた冷凍装置において、前記冷凍サイクルに用いる冷媒が塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒で、純度が99.95wt%以上で、塩素系冷媒の混入が80ppm以下である冷媒であり、前記圧縮機に用いる冷凍機油がポリオールと、直鎖又は側鎖のアルキル系脂肪酸を無触媒で反応させたもので、流動点が-40℃以下、二液分離温度が-20℃以下、全酸価が0.02mgKOH/g以下で、粘度が40℃で8~100cst、粘度指数が80以上のポリオールエステル油を基油とした冷凍機油であることを特徴とする冷凍装置。」

3 裁判所の判断



  1. 社団法人日本電機工業冷蔵庫フロン対応研究委員会が主催して行なわれた技術発表会の参加者が、発表された事項について守秘義務を負うものとすることは不自然であるから、引用例ロ(プログラムおよびレジュメ)に記載された発明は、遅くとも本件出願前である上記発表会の開催日(平成4年7月30日)に公然知られたものと認めることができる。

  2. 引用例ロ~ニに、塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒と、冷凍機油としてエステル油とを組み合わせるに当たって、スラッジ(不純成分)を生じさせないために、塩素系冷媒の混入をできるだけ少なくすることが記載又は示唆されており、その具体的数値として、200ppm以下とすることが記載されているほか、引用例ハ、ホ、ヘに、塩素系冷媒の混入量が47~75ppmである塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒が示されているのであるから、塩素系冷媒の混入量として、200ppm以下の数値である80ppmを選択設定することは、当業者において容易になし得たものといわざるを得ない。
    原告は、さらに、本件発明は、塩素系冷媒の混入量を80ppmとすることにより、徒に冷媒の高純度化を追求することなく、機器の信頼性、能力、コストなどの水準を満たし、性能的、コスト的に実用に耐え得る冷凍装置を実現し得たものであるとも主張するが、本件明細書に、そのような事項の記載又は示唆は全くないから、この主張を採用することもできない。

  3. 本件発明のポリオールエステル油に係る、ポリオールと直鎖又は側鎖のアルキル系脂肪酸とを無触媒で反応させた点、流動点、二液分離温度、全酸価、粘度指数の各限定をすべて満たすようなエステル油は、引用例ト、チのいずれにも、また、引用例ト、チを併せ見ても、これが記載されているということはできない。
    しかしながら、引用例チの上記「全酸価:・・・試験前の全酸価0.01(KOHmg/g)以下の上記エステル」との記載に係る「上記エステル」とは、表1に記載された各エステルのことであるが、これらのエステルは、アルコールとして、ペンタエリスリトール、ネオペンチルグリコール又はトリメチロールプロパンを反応させて生成させたものであって、その点で引用例トの「本発明に用いる油」3~12に係るエステルと共通するものである。そして、引用例チの上記「本発明で使用するエステル中に残存する酸価・・・は安定性に関係がある・・・全酸価が0.03~0.05(KOHmg/g)以上であると、冷凍機内部に使用されている金属との反応により金属石けんなどを生成し、沈澱するなどの好ましくない現象が起こるので、全酸価は0.01(KOHmg/g)以下であることが好ましい」との記載を併せ考えれば、これらのエステルであって、全酸価が0.01mgKOH/g以下であるものが、好ましいものとして採用されているということができるから、上記のとおり、「エステルの酸価は低いほど好ましく通常0.1mgKOH/g以下、特に0.05mgKOH/g以下が好ましい」との記載がある引用例トの「本発明に用いる油」3~12に係るエステルにおいて、全酸価が0.05mgKOH/g以下である0.01mgKOH/gのものを採用すること、すなわち、本件発明のエステル油の限定に係る全酸価0.02mgKOH/g以下とすることは、当業者が容易になし得たものと認めることができる。

  4. 本件発明が必要以上に冷媒純度を高めることなく、また、それによって最小限の価格アップに抑えるという事項は、本件明細書に記載がないのみならず、「冷媒が・・・純度が99.95wt%以上で、塩素系冷媒の混入が80ppm以下である」とする本件発明の構成上、冷媒について、純度を100wt%、塩素系冷媒の混入量を0ppmに極力近付けたものも本件発明に含まれるのであるから、上記主張が失当であることは明らかである。


平成18年8月
エスエス国際特許事務所

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