IP Case
特許法・実用新案法 関連判決
平成15年(行ケ)第525号

硬化性組成物事件

訂正請求における誤記の訂正
管轄:
判決日:
平成16年8月24日
事件番号:
平成15年(行ケ)第525号
キーワード:
訂正請求における誤記の訂正

1.

本件は、訂正審判において「イソプレン系重合体」を「イソブチレン系重合体」と訂正することは、誤記の訂正とは認められなかったケースである。

2.特許請求の範囲(請求項1)


訂正前のもの(本件発明)
「(A)珪素原子に結合した水酸基または加水分解基を有し,シロキサン結合を形成することにより架橋し得る珪素含有基を少なくとも1個有するイソプレン系重合体又は水添ポリブタジエン系重合体,及び(B)上記重合体100重量部に対して0.1~30重量部の炭素原子数8~20の炭化水素基が置換したアルコキシシラン化合物,を含有してなる硬化性組成物。」

訂正後のもの
「(A)珪素原子に結合した水酸基または加水分解基を有し,シロキサン結合を形成することにより架橋し得る珪素含有基を少なくとも1個有するイソブチレン系重合体又は水添ポリブタジエン系重合体,及び(B)上記重合体100重量部に対して0.1~30重量部の炭素原子数8~20の炭化水素基が置換したアルコキシシラン化合物,を含有してなる硬化性組成物。」

3.裁判所の判断



  1. 本件明細書の上記記載によれば,本件発明は,(A)反応性珪素基を有する飽和炭化水素系重合体と,(B)長鎖炭化水素基含有シリコン化合物とを,含有してなる硬化性組成物であり,上記(B)成分を添加することにより,顕著な汚染防止性効果が発現されるものである,と認められる。
    そして,本件発明における飽和炭化水素系重合体としては,「イソブチレン系重合体や水添ポリブタジエン系重合体であるのが好ましい」とされているものの,記載事項aによれば,「イソプレン等のジエン系化合物を単独重合させるか,上記オレフィン化合物とジエン系化合物とを共重合させた後,水素添加する方法」によって得られる重合体(例示化合物A)も含まれるのであり,また,記載事項bによれば,「本発明に用いる飽和炭化水素系重合体には,・・・イソプレン等のポリエン化合物のような重合後に2重結合の残る単量体単位を少量,好ましくは10%以下,更には5%以下,特に1%以下の範囲で含有させ」たもの(例示化合物B)も含まれるものである。そして,「イソプレン系重合体」という用語は,高分子化合物の分野で厳密に定義されている用語ではなく,単にイソプレンを原料の全部又は一部として製造された重合体を意味するものと解することもできるものであるから,これらの例示化合物A及びBは,「イソプレン系重合体」と表現されるものの中に包含されるものであるということができる。審決が,「イソプレン系重合体」が本件明細書の発明の詳細な説明に記載されている,と認定したことに誤りはない。
    本件明細書の発明の詳細な説明には,上記のとおり,「イソプレン系重合体」を意味する技術内容が記載されているのである。旧特許法36条5項1号は,特許請求の範囲について,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」を要求していることからすれば,本件明細書の発明の詳細な説明に「イソプレン系重合体」について記載がなければ,本件明細書の請求項1の「イソプレン系重合体」が誤記であると解する余地はあるものの,本件明細書の発明の詳細な説明に,「イソプレン系重合体」の技術内容が記載されている以上,本件明細書の請求項1の「イソプレン系重合体」が誤記であると認めることはできない。
    本件明細書の請求項1に記載された「イソプレン系重合体」が「イソブチレン系重合体」の誤記であるかどうかは,本件明細書自体から明らかでなければならない。すなわち,本件特許の内容は,本件明細書の特許請求の範囲と発明の詳細な説明に記載されたところにより決定されるのであり,本件明細書が特許公報の形式で第三者に対し公示されることにより,第三者が本件特許の内容を知り得るのであるから,本件明細書に誤記があるかどうかは,本件明細書自体から当業者にとって明らかでなければならないのである。本件補正書によって補正された本件明細書と本件意見書との間に,その内容に齟齬があるとしても,本件明細書は,特許公報の形式で第三者に本件特許の内容を公示するものであるのに対し,本件意見書は一般に公示されるものではないのであるから,本件明細書自体から誤記が明らかでない限り,本件意見書によって本件明細書の記載を誤記であると認めることはできない。


平成16年10月
エスエス国際特許事務所

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